海外旅行中や留学中に現地の病院で診察を受けた際に「高額な医療費がかかるかもしれない」と不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
日本の公的医療保険に加入していれば、海外で支払った医療費の一部が払い戻される「海外療養費制度」を利用できます。
ただし、すべてのケースで支給されるわけではないので、どのような状況に適用されるのかを知っておくことが大切です。
この記事では、海外療養費制度の支給対象範囲や支給金額、申請手順を解説します。
申請する際の注意点も紹介するので、海外でかかった医療費負担を軽減したい方は、ぜひ参考にしてみてください。
海外療養費制度とは

海外療養費とは、国民健康保険や健康保険といった日本の公的医療保険に加入している方が海外で治療を受けた際に、医療費の一部が払い戻される制度です。
海外の医療機関では、原則として医療費の全額を自身で支払う必要があります。
ただし、帰国後に海外療養費制度の申請をすれば、一定割合の医療費が還付される場合があります。
支払った医療費全額が戻ってくるわけではないものの、日本の公的医療保険が適用される範囲内で医療費負担を軽減できるでしょう。
海外療養費の支給対象範囲

海外でかかった医療費すべてが海外療養費の支給対象となるわけではありません。
ここでは、支給対象になるケースとならないケースを解説します。
支給対象になるケース
海外療養費の支給対象となるのは、海外渡航中の急な病気やケガのうち、日本の公的医療保険の適用対象となる治療です。
具体的には、以下のようなケースが該当します。
- 海外旅行中に発熱し、現地の病院で診察や処方を受けた場合
- 留学中に転倒して骨折し、現地の病院で治療を受けた場合
- 海外旅行中に虫歯が痛み出し、歯科医院を受診した場合
緊急かつやむを得ない治療として認められ、帰国後に申請をすることで医療費の一部が払い戻されます。
支給対象にならないケース
以下のようなケースは、海外療養費の支給対象外となります。
- 日本の保険適用外の治療を受けた場合
- 治療目的で海外渡航し、治療を受けた場合
- 交通事故や第三者行為によるケガの治療を受けた場合
美容整形やホワイトニング、予防接種、健康診断など、日本の公的医療保険の適用対象外となる治療は支給対象外です。
また、日本で治療可能な病気やケガを治療するために海外に渡航して治療を受けた場合や、交通事故や第三者の不法行為によって生じたケガの治療費は、支給対象になりません。
海外療養費の支給金額

海外療養費制度では、海外で支払った医療費全額が戻ってくるわけではありません。
支給額の計算式は、以下のとおりです。
支給額=日本の医療費を基準とした額-自己負担相当額 |
まず、海外で支払った医療費を支給決定日の為替レートで日本円に換算します。
次に、その治療を日本で受けた場合にかかる治療費を算出します。
「日本の医療費基準で計算した額」と「実際に海外で支払った額」を比べて、低い方の金額から自己負担額(1~3割)を差し引いた額が支給される仕組みです。
たとえば、海外でかかった治療費が200ドル、支給決定日の為替レートが1ドル=150円の場合、円換算すると3万円になります。
日本で同じ治療を受けた場合の費用が2万円と仮定すると、支給額は以下のようになります。
支給額=2万円-(2万円×自己負担分0.3)=1万4,000円 |
海外療養費の申請手順

海外療養費は、渡航期間中に申請することはできません。
現地の医療機関で医療費全額を支払い、帰国後に自身が加入している健康保険組合に申請します。
申請手順は以下のとおりです。
- 必要書類を準備する
- 保険者に提出する
- 給付金が振り込まれる
それぞれ詳しく解説します。
1.必要書類を準備する
海外療養費を申請するためには、以下の書類が必要になります。
必要書類 | 概要 |
海外療養費支給申請書 | 市区町村役場、健康保険組合などの窓口で取得できる |
診療内容明細書 | 現地の医療機関で記入してもらう |
領収明細書 | 現地の医療機関で記入してもらう |
領収書 | 実際に支払った医療費の領収書 |
翻訳文 | 診療内容明細書や領収明細書、領収書が外国語で記載されている場合は、日本語の翻訳文を添付する必要がある(翻訳者は住所、氏名、電話番号を記入する) |
渡航期間が確認できる書類 | パスポートまたは航空券の写しなど |
医療機関への照会同意書 | 診療を受けた医療機関に詳しい診療内容を照会することに同意する書類 |
本人確認書類 | マイナンバーカード、運転免許証など |
世帯主の口座番号がわかるもの | 預金通帳など(海外への送金はできない) |
診療内容明細書と領収明細書は、現地の医療機関で記入してもらう必要があるため、渡航前に用紙を印刷して持参することをおすすめします。
現地の医師に依頼することができず、必要事項を確認できない場合は、海外療養費の支給を受けられなくなる可能性があるので注意しましょう。
2.保険者に書類を提出する
必要書類がそろったら、自身が加入している健康保険組合に提出しましょう。
書類提出後に審査が実施され、被保険者や医療機関に診療内容や費用などを照会するケースもあります。
海外療養費の審査には1ヶ月以上かかることが多く、審査が終了したら結果が通知されます。
3.給付金が振り込まれる
支給が決定すると、指定した金融機関の口座に給付金が振り込まれます。
海外への送金には対応していないので、国内の金融機関の口座を指定する必要があります。
事業主または日本在住の家族を受取代理人にすることも可能です。
海外療養費を申請するときの注意点

海外療養費の支給を受けられなくなったり、期待した金額を受け取れなくて困ったりしないためにも、注意点を押さえておきましょう。
ここでは、海外療養費を申請するときの注意点を紹介します。
治療費支払日の翌日から2年経過すると請求できなくなる
海外療養費の申請には時効があります。
医療費を支払った日の翌日から2年以内に申請しなければ、支給を受ける権利がなくなります。
帰国したら早めに手続きを進めるようにしましょう。
支給額が支払った治療費を下回る可能性がある
海外療養費の支給額は日本の医療費を基準に計算されるため、実際に支払った治療費を下回る可能性があります。
海外での高額な医療費に備えるには、海外旅行保険に加入しておくのがおすすめです。
海外旅行保険には、保険会社と契約するタイプとクレジットカード付帯タイプがあります。
クレジットカード付帯の海外旅行保険には、保険が自動的に付帯する「自動付帯」と、旅行代金などをカードで支払うことで保険が適用される「利用付帯」のカードがあるため、自身のカードの保険適用条件を確認しておきましょう。
海外旅行保険から保険金が給付される場合であっても、海外療養費を請求することは可能です。
海外旅行保険に加入していれば、医療費だけでなく、航空機の遅延や手荷物の紛失、賠償責任など旅行中のさまざまなトラブルに対する補償を受けられるため、より安心です。
海外療養費制度と海外旅行保険で医療費負担を軽減しよう
海外療養費制度は、海外で急な病気やケガをした際に、医療費の負担を軽減できる制度です。
しかし、日本の治療費を基準に支給額が算出されるため、海外で支払った医療費全額が戻ってくるわけではありません。
より手厚い補償を受けたい方は、海外旅行保険に加入することをおすすめします。
海外療養費制度と海外旅行保険を活用して、海外でかかる医療費負担を軽減しましょう。
海外での医療費負担に不安を感じている方は、お気軽にご相談ください。
監修者:東本 隼之
AFP認定者、2級ファイナンシャルプランニング技能士
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