親が認知症になると、遺言書が作成できなくなったり、家族間での話し合いが困難になったりする可能性があります。
そのような状況を避けるためには、相続対策を先延ばしにせず、親が認知症になる前に対策しておくことが大切です。
この記事では、親が認知症になる前にやるべき相続対策や、起こり得る相続トラブルを解説します。
親の財産に関する相談先も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
親が認知症になった場合に起こる相続トラブル

親が認知症になると、以下のような相続トラブルが起こる可能性があります。
- 遺言書を作成できない
- 相続の話し合いができない
- 親の預金の無断使用を疑われる
それぞれ詳しく解説します。
遺言書を作成できない
遺言書は、財産を誰にどのように遺したいかという意思表示をするための書類です。
遺言書を作成するときに遺言内容を適切に判断できる能力がなければ、無効とみなされる可能性があるため、認知症になると遺言書の作成ができなくなります。
遺言書がなければ相続人全員で遺産分割協議をすることになりますが、話し合いがまとまらず、遺産分割協議がスムーズに進まない可能性があります。
希望どおりの遺産分割をしたり、遺産分割トラブルを防いだりするためには、認知症になる前に遺言書を作成することが大切です。
相続の話し合いができない
親が認知症相続人になると、財産がどこにどれくらいあるのか、借金はないのかといった財産の全体像を把握するのが困難になります。
財産が不明確なままでは、遺産分割協議を進めるのが難しくなってしまいます。
また、親が認知症になることで生前贈与をするための契約行為ができなくなるので、相続対策として生前贈与を選択する難易度も上がってしまうでしょう。
親の預金の無断使用を疑われる
認知症の親の銀行口座を管理している状態で相続が発生すると、他の相続人から預貯金の使用額や使用目的について疑問をもたれるケースがあります。
被相続人の生活費や医療費のために使用していたとしても、証拠がなければ他の相続人とトラブルになる可能性があるので注意が必要です。
財産の使い込みを疑われないためにも、領収書やレシートなどを残しておきましょう。
親が認知症になる前にやるべき相続対策

親が認知症になる前に、以下のような相続対策をしておくことが大切です。
- 財産を明らかにしておく
- 生前贈与をする
- 遺言書を作成する
- 任意後見制度を利用する
- 家族信託を利用する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
財産を明らかにしておく
親が認知症になると、財産を把握するのが難しくなるので、どのような財産があるのかを早いうちから確認しておくことが大切です。
調査した財産については、相続人になる可能性がある親族にも共有しておきましょう。
財産調査は、預貯金や不動産、美術品、自動車などのプラスの財産だけでなく、借入金や未払金といったマイナスの財産も明確にしておくことが重要です。
財産を一覧にした財産目録を作成しておけば、遺産分割協議を進めやすくなるでしょう。
生前贈与をする
親の希望どおりに財産を譲るためには、生前贈与をするのがおすすめです。
年間110万円以下の贈与であれば贈与税がかからないので、早い時期から少しずつ贈与を始めましょう。
ただし、定期贈与や名義預金とみなされると、年110万円以下の贈与であっても税金がかかるので注意が必要です。
定期贈与とは、1,000万円を毎年100万円ずつに分割して贈与するといったように、あらかじめ約束をした金額を分割して贈与することを指します。
定期贈与とみなされないためには、贈与時期や贈与額を変えたり、贈与のたびに贈与契約書を作成したりすることが大切です。
また、親が子供名義の口座に入金し、預金通帳と印鑑を親が管理していると名義預金と判断され、相続税の課税対象となります。
名義預金と判断されないためにも、受贈者が通帳や印鑑を管理するようにしましょう。
年間110万円を超える贈与であっても、贈与目的によっては以下のような非課税の特例を受けられます。
非課税の特例 | 概要 |
教育資金の一括贈与の特例 | 2026年3月31日までに父母や祖父母などが30歳未満の子や孫に教育資金を贈与する場合に1,500万円まで非課税となる |
結婚・子育て資金の一括贈与の特例 | 2027年3月31日までに父母や祖父母などが18歳以上50歳未満の子や孫に結婚や子育ての資金を贈与する場合に1,000万円まで(結婚資金は300万円まで)非課税となる |
住宅取得等資金の非課税の特例 | 2026年12月31日までに父母や祖父母などから子や孫に住宅取得等のための資金を贈与する場合に一定額まで非課税となる |
生前贈与をする際に、活用できる特例がないかを確認してみましょう。
遺言書を作成する
認知症になったあとに作成した遺言書は無効となる可能性があるため、認知症になる前に遺言書を作成しておくことをおすすめします。
遺言書には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
多くの方に利用されている「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の特徴は、以下のとおりです。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | |
作成方法 | 遺言者が遺言の全文、日付、氏名を自筆し、押印する | 公証人が遺言者の遺言内容をもとに作成する |
証人 | 不要 | 2名の立会いが必要 |
検認 | 必要(法務局保管の場合は不要) | 不要 |
保管方法 | 自分で保管(法務局保管も可) | 公証役場で保管 |
費用 | 0円(法務局保管手数料は遺言書1通につき3,900円) | 5,000円~(財産額によって異なる) |
遺言書を作成する際は、公正証書遺言を選択するのがおすすめです。
公正証書遺言を作成する際は、2人以上の証人の立ち会いが必要となるため、遺言作成者に正常な判断能力があったと判断される要素の1つになるでしょう。
任意後見制度を利用する
任意後見制度とは、判断能力があるうちに自身が認知症になったときの財産管理や生活に関する手続きの代行者を決めておく制度のことです。
任意後見制度を利用すれば、認知症になったあとに任意後見人が財産を管理できます。
任意後見人の行為は任意後見監督人が監督するため、他の相続人とトラブルになる心配が少ないでしょう。
家族信託を利用する
家族信託とは、親の財産管理や処分を信頼できる家族に託す制度です。
家族信託を締結しておけば、認知症になっても家族が親の財産を管理できます。
不動産を複数の相続人で共同保有すると、売却する際に他の相続人の同意が必要です。
しかし、家族信託によって不動産の所有権を受託者に移しておけば、不動産の共同保有によるトラブルを避けられます。
家族信託契約によって財産を引き継ぐ方を決めておけば、遺産分割もスムーズになるでしょう。
親の財産に関する相談先

相続や財産管理について疑問点がある場合や、相続対策のための手続きを進めたい場合は、専門家に相談するのがおすすめです。
親の財産に関する相談先には、以下のようなものがあります。
- 公証役場
- 弁護士
- 司法書士
- 行政書士
- 税理士
それぞれ詳しく解説します。
公証役場
公証役場は、公正証書の作成などを担当する公的機関です。
公証人が遺言者の意思を確認しながら公正証書の作成をサポートしてくれます。
公正証書遺言の作成サポートだけでなく、任意後見制度や家族信託契約の相談にも対応しています。
弁護士
弁護士は、法律相談や法律事務、弁護活動を担当する専門家です。
相続トラブルを予防するためのアドバイスや、法的に有効な遺言書の作成サポートを依頼できます。
ただし、他の専門家に比べて依頼費用が高い傾向があります。
司法書士
司法書士とは、登記申請や相続に関する専門家です。
親の財産に不動産が含まれている場合は、不動産の生前贈与や相続登記の相談ができます。
遺言書の作成サポートや任意後見制度、家族信託に関する相談も可能です。
行政書士
行政書士とは、官公庁に提出する書類や手続きに関する専門家です。
遺言書作成のサポートを受けたり、任意後見制度の相談ができたりします。
遺産分割協議書の作成依頼も可能です。
税理士
税理士は、税務に関する専門家です。
生前贈与にかかる贈与税や相続税対策に関する相談ができます。
相続による税負担を抑えたい方は、税理士に相談してみましょう。
親が認知症になる前に相続対策をしておこう
親が認知症になると、遺言書が作成できなくなり、財産に関する話し合いも難しくなります。
希望どおりの相続をしたり、遺産分割トラブルを避けたりするためには、親の判断能力があるうちに相続対策を始めることが大切です。
財産目録や遺言書の作成、任意後見制度や家族信託といった制度の活用を検討してみましょう。
相続に関する相談先に悩んでいる方は、お気軽にご相談ください。
監修者:東本 隼之
AFP認定者、2級ファイナンシャルプランニング技能士
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